「詳しく話を聞こうじゃないか」と言ってもらえるようになるまで、まずは知名度を上げよう

 自分が作った製品を、その価値を理解してもらった上で、より多くの人に買ってもらうにはどうしたらいいか、これは、商売をする人にとって、永遠のテーマだと思います。

 私は今、当社が開発したあるソフトウェアの販促を担当していて、パン、洋菓子、外食、加工食品の各業界に向けて色々とやっています。パン業界に対しては、当初の期待に近い感じで売れていて、洋菓子業界に対しては、そこそこ売れているという感じです。ところが、外食業界と加工食品業界に対しては、大苦戦を強いられています。

 商品のソフトウェアは、ベースの部分は同じで、そこに各業界の事情を考慮して、様々な機能を加えてあります。外食業界と加工食品業界向けのものが、製品として劣っているかというと、まったくそのようなことはなく、むしろ、初めて向き合う業界だからこそ、念入りに調査を重ね、持てる能力のすべてをつぎ込んで開発に取り組んだ自信作です。

 とはいっても、4業界へのソフト販売の成績は、最初から分かっていたことではあります。なぜなら、ある特定の市場に物を販売していくということは、その市場での知名度を高めていくということと、ほぼ同じ意味だからです。

 当社は、2000年にパンの専門誌、ブランスリーを創刊して以来、毎月ずっと全国のベーカリーにその雑誌を送り続け、さらに、取材を通して、多くのパン業界関係者の方々と関わってきましたから、パン業界に対して売っているソフトは、売れ行きは好調です。

 洋菓子業界は専門ではありませんが、パン業界と重なる部分があったり、雑誌で洋菓子店を取材することがあったりしますので、全く馴染みがないというわけではありません。ですから、洋菓子業界に対して販売しているソフトは、好調とはいわないまでも、そこそこは売れます。

 ところが、外食、加工食品の両業界に対しての商売は、ほぼ未経験で、両業界でブランスリーの話をしたら、「何それ」の一言で終わってしまうでしょう。外食、加工食品の両業界でのブランスリーの知名度はほぼゼロです。

 人間は、その生物学的な観点からの習性に由来して、知らない人の話は、まともには聞きませんし、その話の内容の価値を、限りなく低く見積もろうとします。

 逆に、よく知っていて親しみを抱いている人の話は、多少難しい内容でも、必死に理解しようと努力します。そして、その話の内容を、必要以上に高く評価します。

 よって、あなたを「知らない人」とみなす相手に、いくら商品の説明をしても、聞く耳を持たないのですから、説明するだけ無駄だということになります。

 ここで、冒頭に書いた「自分が作った製品を、その価値を理解してもらった上で、より多くの人に買ってもらうにはどうしたらいいか」という問いに対する答えは明白になります。

 つまり、ターゲットとしている市場のなるべく多くの人たちに、自分を「知らない人」ではなく「知っている人」として認識してもらえる状況にすることが、先決だということになります。

 郊外立地のベーカリーであれば、ターゲットとする市場は、地元の地域ということになるでしょうから、地元の人たちに知ってもらうために、SNSで情報を発信したり、近隣の住宅にポスティングを行ったり、地域の情報誌やテレビに取材してもらったりして、広報活動を展開することになるでしょう。

 ベーカリー向けの機械や原材料を販売する会社であれば、ターゲットとする市場は、全国のパン屋ということになるでしょうから、パン屋向けの展示会に出展したり、パン屋向けの業界誌に広告を出稿したりして、広報活動を展開することになるでしょう。

 広報活動における情報発信は、一つのチャンネルからだけではだめです。複数の異質のチャンネルから立体的に情報を発信することが肝要です。

 いずれにしても、地道な広報活動を通して、ターゲットとする業界の人たちから「詳しく話を聞こうじゃないか」と言ってもらえるようになるまで、知名度を上げていかなくてはなりません。すべてはそこから始まります。(ブランスリー2021年8月号のコラム「普通のパン屋さんが普通に頑張れば繁盛出来る話」から転載)